私の剣道物語 第4回


No Kendo No Life

大和市南部剣友会   小菅信一

はじめに

 この度、5月に愛知で行われた審査で七段に合格することが出来ました。これまで

大和市剣道連盟の先生方をはじめ、多くの先生方のご指導の賜物だと思っており、深く感謝申し上げます。

 先日、大和市剣道連盟の戸塚会長から「これまでの剣道の取り組みや、剣道に対しての思いなどを『私の剣道物語』として書いてみないか。」というお話をいただきました。初めは諸先生方や先輩方を差し置いて、そのような話をすることなど畏れ多いことだと思い躊躇(ためら)いましたが、今回の昇段を機に、自分自身の剣道への取り組みを振り返ると同時に、これからどのように剣道と向き合っていくかを考える良い機会だと思い、誠に僭越ではありますが寄稿させていただくことといたしました。 

1. コロナ禍での審査にむけて 

    度重なる緊急事態宣言で体育館が使用できず、稽古の機会が激減しました。私は一週間稽古をしないと感覚が鈍るタイプなので、稽古ができないというのは非常に辛かったです。しかし、何もしないというわけにはいかないので、「とにかくこの状況で出来ることをやろう。」と思い、以下のことを中心に取り組みました。

◎素振り

  (使用したもの)

   素振り用木刀・・・肩関節を意識。筋力をつける。

   木刀・・・無駄な力を抜いて正しい刃筋を意識。

   竹刀・・・普段使っている竹刀での素振り。実戦をイメージしながら。

            砂を詰めたビール瓶・・・中学の時から使っている年代物。筋力アップや手首の鍛錬。

  (やり方)

   ・前進後退左右に動いて・・・通常の素振りです。

   ・股割り・・・両足を大きく開き膝が90°に曲がるまで体を落とす。

   ・重心を低くして・・・足を前後に大きく開き重心を落とす。下半身の鍛錬。

   ・30秒間で何回振れるか・・・これは単に振りのスピードを意識したもの。

 

   *YouTubeで一流剣士の素振りの方法をやってみる

 

恩師からいただいた素振り用木刀 
恩師からいただいた素振り用木刀 
中学1年の時に作った、砂詰めビール瓶
中学1年の時に作った、砂詰めビール瓶

◎防具を着けての稽古

 1時間程度の短い時間の稽古ですが貴重な機会。短い時間だからこそ、その時その時に明確な目標をもって稽古に臨む。

  ・初太刀を意識して ・捨て切った打ちを意識して ・技前の攻めを意識して等

 

◎自宅(室内)でのイメージトレーニング

  室内や2~3メートルほどの廊下を使って。

  審査を意識して、礼→蹲踞→攻め→初太刀の流れを何度も繰り返す。

  YouTubeで審査合格者の動画を参考にイメージする。

 

◆YouTubeなどでは、コロナ禍における稽古法の動画や審査の動画がたくさんあり、中にはあまり相応しくないものもあります。どの動画を参考にするかの選択が大切だと思います。

 

2. 試合とは不思議なもの、理想の勝負とは

     私は決して試合は強くありません。今までの成績をみると「負け」の回数のほうが多いと思います。当然ながら試合は勝負ですので、勝てば嬉しいですし負ければ悔しいです。しかし時々、勝ってもあまり気持ちの良くないときや、負けても清々しい気分の時があったりします。

  

     今までの自分の試合の結果を振り返ると次のように分かれました。

     ① 勝って気持ちが清々しい時→気持ちが充実し、捨て切った技で勝った時。

     ② 負けて悔しい時→気持ちが充実していなく、相手に攻められていた時。

*①②はよくあることです。

    ③ 勝ったのにあまり気持ちが清々しくない時→気持ちや技が十分ではないけれど、運よく当たってしまった。

    ④ 負けたけど清々しい気持ちの時→気持ちは充実、捨て切った技を出したが、相手にうまく返されたど。

 

試合の後の「清々しい気持ち」に共通していることは、「充実した気持ち」で「捨て切った技が出せた時」であることに気づきました。試合になると「勝ち負け」に拘りすぎて、「ただ当てるだけの打ち」になってしまいますが、このことに気付いてからは、「充実した気持ちで、捨て切った技を出す」ことを第一に考え、「勝ち負け」はその先に付いてくるものだと考えるようになりました。

 

 昔、恩師から「試合は勝ちっぷりよく、負けっぷりよく。」と言われたことがあります。今、私はそんな試合(勝負)を目指しています。

 

3. 生活の中に在る剣道とは

 私は初対面の人などからよく「何か武道系のものをやっていますか?」と聞かれることが多いです。また、以前自転車の防犯登録の確認のため、警察官に呼び止められ話をしていた時に「柔道か剣道をやっていますか?」と聞かれたことがあります。そのようなことを聞く理由を聞いてみると、「姿勢が良い。」「お辞儀(礼)や歩き方が普通の人と違う。」「話し方がほかの人とちがう。」等でした。

 

 何年も剣道を続けていると、身についた姿勢や所作などが日常生活に自然と溶け込んでいたようです。私自身こういったことを周りの人から言われることはとても嬉しいことで、これからも「剣道をやっている人はちがうね。」と思われるような言動を心掛けたいと思います。

また普段の生活の中で、剣道の影響を受けた行動を無意識にとっていることにふと気付きました。皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか?

 

例えば・・・

・閉じた傘を持つ時は無意識に左手で「提げ刀」をしている。

・トイレやお店の鏡、ガラスに自分の姿が映ると、構えのチェックをしてしまう。

(もちろん周りに人がいないのを確認して・・・)

・部屋に入る時(特に和室や広い部屋)に入り口で一礼してしまう。  等々

皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか?

 

4. 私にとっての「剣道」

     私のこれまでの人生を振り返ってみると、良い時も悪い時も常に私のそばには「剣道」があり、救われてきたと思っています。

若い頃は人並みに親に反抗していた時期があり、周囲の大人に対して斜に構えていた時期がありました。時には「外れた道」に進みそうになった時もありました。そんな時の私の精神状態は剣道に顕著に現れました。心が荒れている時、乱れている時は「素直な打ち」が出ません。先生方にはそれがしっかりと見えていたようで、「今日のお前の剣道は乱れている。心が乱れているね。」というお言葉をいただきました。その時初めて、自分でも気付いていなかった「心の乱れ」に気付かされ、私はその場で先生に「かかり稽古」をお願いし、頭の中が真っ白になるまでかかっていきました。すると不思議なことに、どこか自分の中でモヤモヤしていたものが無くなり、すっきりとした気持ちになったのです。

 

 こういったことをくり返してきたおかげで、大きく道を踏み外さずに生きてこられたのだと思います。私はこれを「心のデトックス」と呼び、今でも時々気持ちがモヤモヤしているときは、先生方に打ち込みやかかり稽古をお願いしています。

 

私のこれまでの人生を振り返ってみると、良い時も悪い時も常に私のそばには「剣道」があったように思います。よく雑誌のインタビューや記事で多くの剣道家の方たちが「剣道は私の人生そのものです。」とコメントしていることがあります。若い時は「そんな大袈裟な・・・」なんて思っていた時もありました。しかしよく考えると、私も人生の半分以上を剣道とともに生きていることに気付きました。その中で剣道からは「人に対する接し方」「物事に対する取り組み方」「自分を見つめることの大切さ」等いろいろなことを教わってきました。今となっては自然と生活の中に剣道が溶け込み、肉体面、精神面で大きな支えとなっています。

 

 そう考えると私自身、「剣道は人生そのもの」といっても過言ではないのかもしれません。

 

 昔、恩師から「試合は勝ちっぷりよく、負けっぷりよく。」と言われたことがあります。今、私はそんな試合(勝負)を目指しています。

 

5. 心に残る言葉

     今まで先生方にいただき、私の心に残っている言葉をご紹介します。

 

・「勝ちっぷりよく、負けっぷりよく。」

  思い切った技を出して負けた時にいただいたお言葉。

 

・「審査は受け続けなさい。」

  審査になかなか受からず、次の審査を受けることを躊躇っていた時にいただいたお言葉。逃げ腰になっていた私の心を読まれていたのだと思います。

 

・「試合で負けた時の行動に、その人の本質が現れる。」

  負けて悔しいからといって、相手への敬意や礼法を怠ってはいけない。

 

・「高段者になるほど、社会人としてどうあるかが大切。」

 

・「続けることも才能のひとつ。」

  剣道だけでなく、全てのことに言えることですね。

 

・「剣道でメシは食えぬが、役に立つ。」

  以前読んだ書物の中の言葉。「何のために剣道をやっているのか・・・」と

  悩んでいた時に、背中を押してくれた言葉です。

 

終わりに

 ここまで稚拙な私の話にお付き合いいただき有難うございました。この原稿を書きながら感じていたことは、これまで剣道を続けられてきた環境への感謝。先生、先輩、家族への感謝。そして「私は剣道が好きだ。」ということでした。まだまだ未熟な私ですが、これからも剣道の修業を続けて参りますので、皆様の ご指導ご鞭撻をお願いいたします。

 

 現在、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されているなかで、思うように剣道ができない状況です。今はとにかく、「感染しない、させない」ために、感染予防対策をしっかりとおこなうことが大切だと思います。そしてコロナ禍が終息した時、再び皆さんと思い切り稽古ができることを夢見て、今は「我慢の時期」を乗り越えていきたいと思います。